Column
2023.03.22
長期優良住宅という言葉に馴染みのない方もいるかもしれません。
国土交通省がリードして10年以上も前にはじまった制度ですが、まだ十分に浸透しているとはいえないのが現状です。
事実令和3年3月末の時点で長期優良住宅の認定を受けた一戸建て住宅は合計1,211,258戸、共同住宅で22,769戸しかありません。
これは過去12年間のデータですが、この制度が開始された翌年度以降実績はほぼ横ばいの状態です。
しかしこれから家を新築したり増改築したりすること考えている人たちにとっては、
実際長期優良住宅は検討する価値の十分あるものです。
しかも令和4年度末までを目処に、長期優良住宅を新築する人たちを対象に減税措置を講じています。
このことからも国が中心になって長期優良住宅を推奨していることがわかります。
そこで今回の記事ではこの長期優良住宅について、その特徴や認定を受けるための条件・メリットやデメリットなどについて解説していきます。
長期優良住宅とは、長期間にわたって住み続けられるように措置を講じた優良な住宅を意味します。
この長期優良住宅を普及させるため「長期優良住宅の普及の促進に関する法律」が制定されています。これは国土交通省が主導する制度です。
平成21年6月にこの法律が施行されており、令和3年5月に同法律は改正されています。
新たな改正案では災害への配慮や共同住宅における制度認定が導入されています。
この制度が導入された背景には大量生産・大量消費が推進された結果、廃棄物などに代表される環境問題が表在化した社会への反省の思いが込められているのです。
すぐに壊れてしまう質の悪い製品ではなくよいものを丁寧に作りしっかりと手入れをして大切に長く使うこと、この考え方が住宅にも適用された結果生み出されたのが長期優良住宅の考え方でもあります。
とくに昔から限られた資源を大切にする精神をもち、ものづくりに長けた日本人にとって長期優良住宅は適した制度であるといってよいでしょう。
長期優良住宅の認定を受けるためには、定められている基準をクリアする必要があります。
この基準をみると長期間にわたって大切に家に住み続けるために必要な要素が理解できます。それでは続けてその基準をご紹介していきましょう。
住宅の構造および設備が、長期にわたって良好な状態で使用できる措置が講じられていることが必要です。そのために5つの項目が評価されます。
・耐震性
日本は地震の多い国ですが、まれに発生する大きな地震を経ても継続して住める耐震性が求められています。さらに地震後も継続して居住できるように建物の損傷レベルを低減化する構造が必要です。
具体的には新築住宅・中古住宅で耐震等級2以上であること、または新築および中古住宅で免震構造になっていることが認定の基準となっています。
以下は共同住宅・長屋に求められる要素です。
長く居住するとライフステージに合わせて家の間取りを変更する必要が出てくることがあります。
そこで将来間取りの変更が可能な措置が講じられていること、すなわち住宅に可変性が備わっていることが求められているのです。なおこれは共同住宅・長屋に求められる要素です。
さらに高齢者となってからも住むことを想定した対策が必要とされます。これも共同住宅に求められている基準ですが、すでにバリアフリー対策がとられているかだけでなく将来バリアフリー環境を作ることを想定しているかが評価されます。
すなわちたとえば共用する廊下などをリフォームすることを想定し、十分なスペースが確保されており車椅子を利用しても移動ができるような構造に改修できることが重要です。高齢者等配慮対策等級3以上が、新築住宅に求められています。
・省エネルギー性
長く住宅を使用するために、省エネルギー基準に適合する必要な断熱性能を確保していることが重視されます。
・劣化対策
数世代にわたって住宅をよい状態で使用できるようにするために、建物に対する劣化対策が講じられていることも評価の対象です。新築住宅および中古住宅において劣化対策等級3以上が必要となります。
これは構造に応じて異なっており、たとえば木造であれば床下・小屋裏に点検口を設置し、床下空間の有効高さを330mm確保することが必要です。
鉄筋コンクリート造であれば、水セメント比を5%減またはかぶり厚さを1cm増加することなどが必要とされています。
適切なレベルの居住環境を確保するため、最低限必要な居住面積を有していることも大切です。
これは一軒家の場合床面積が75平方メートル、共同住宅であれば一戸の床面積が55平方メートル以上ある必要があります。
住宅周辺の景観や地域の居住環境の良好な状態での維持、向上が配慮されていることを重視されます。地区計画・景観計画・条例などによる、町の景観に対する計画・建築協定・景観協定などを、把握しておく必要があるのです。
住宅を少しでもよい状態で維持するために、建設時から将来を見据えて定期的な点検補修等などに関する計画がなされていることが重視されます。
建物部分に比べて耐用年数が短い設備および内装に対し、管理者が清掃・点検・補修などの維持管理を容易に行えるように必要な措置が講じられているかどうかが重要です。
これはたとえば共同住宅の共用配管や共用排水管を、専用部分に立ち入ることなく補修できるところに露出させておくことなどが含まれます。
次に住宅を長期優良住宅の基準に合わせて新築したり、増改築したりすることのメリットやデメリットについて解説していきましょう。
住宅を購入する際通常は住宅ローンを利用することになります。この住宅ローンに関し、長期優良住宅にすることによって得られるメリットがあるのです。
まず住宅ローンに関してですが、住宅ローンの年末での残高の1%が購入後10年間は所得税と住民税から控除される制度があります。これが住宅ローン減税です。
長期優良住宅では4,000万円の住宅を購入し令和3年末までに入居した場合、毎年40万円を超える所得税・住民税を納めている人であれば、長期優良住宅では10年間の控除額を通常の400万円から500万円に引き上げられます。
また住宅金融機構と民間金融機関による住宅ローンのフラット35は、長期優良住宅であれば金利を引き下げてもらえるフラット35Sや、フラット50など条件のよい住宅ローンを利用するメリットが受けられるのです。
令和2年末までの特別措置として不動産取得税や登録免許税、また購入後は固定資産税等が減税されるメリットがありましたが、現在令和4年3月末まで延長されています。
たとえば令和4年末までに住宅を取得した場合、床面積が50平方メートル以上あることなどの条件はありますが所有権保全登記に関する税率を一般住宅特例にかかる税率よりも引き下げられます。
また同じく令和4年3月末までに新築された住宅に対する不動産取得税についても、床面積が50平方メートル以上240平方メートル以下の場合、長期優良住宅は一般住宅に比べて控除額が増額されるのです。
さらに固定資産税については令和4年3月末までに新築された場合、床面積が50平方メートル以上280平方メートル以下の長期優良住宅は一般住宅特例に比べて税の減額措置期間が2年間延長されます。
期間が延長されたことは国がこの制度を推奨し、広く活用して欲しいと考えていることと関係しているのです。
2021年12月31日までの期間限定で投資型減税を受けることができます。
これは長期優良住宅にするために一般住居よりも多くかかる費用の10%が減税される措置で、住宅ローンによる税金控除との併用はできませんし申請は一度きりになりますが、住宅ローンを利用していなくても650万円の控除対象限度額に対する控除率10%の65万円を上限に所得税が控除されます。
ただし床面積が50平方メートル以上あること、住宅の引き渡し又は工事完了から6ヵ月以内に居住のために供すること、合計総所得額が3,000万円以下であることなど複数の要件を満たす必要があります。
複数の減税措置を受けられるメリットに加え、長期優良住宅を取得することにはいくつかのメリットがあります。たとえば長期優良住宅は認可を受けるために国が定めた基準をクリアする必要があります。
その過程はたいへんではありますが、基準をクリアすることは国からのお墨つきをもらえた住宅といえるのです。これは住宅の資産価値を高めてくれるものになるでしょう。
厳しい基準をクリアしていることの証拠として、長期優良住宅の基準を満たしていることで地震保険料は約30%の割引を受けられます。
長期優良住宅を取得するデメリットは主に時間と費用です。
まず長期優良住宅を新築で建てる場合、設計時から建築するときまで一般的な住宅を建築する場合に比べて作りこむため手間が必要です。
そのため通常の一軒家を建てるよりも1ヵ月ほど長く時間を必要とするのです。
またその分建築に関わる人に対する人件費・基準を満たすために要する設備などを追加しますので、その分費用が必要となります。
さらに長期優良住宅の認定基準に含まれる維持保全計画には、定期的な点検が組み込まれており点検のためのコストも必要となるのです。
なお長期優良住宅の申請をするためにも費用が発生します。
個人で自治体に申請すると5~6万円ほどで済みますが、ハウスメーカーなどを介すると書類作成の負担が軽くなる分費用はかさみます。
ただ長期優良住宅は地域型住宅グリーン化事業や、長期優良住宅化リフォーム推進事業などの補助金を活用できるのです。費用面でのデメリットはある程度解消できる可能性はあります。
長期優良住宅の申請を行い、審査を受けるためには主にふたつのパターンがあります。
それぞれ関わる機関に大きな違いはありませんが申請する順番が異なるので注意をしておきましょう。
まず申請者である建築主は、登録住宅性能評価機構に対し対象となる住宅の技術的審査を行う依頼をします。
さきに評価を受けておき実際に審査を行う所轄行政庁に対し、居住環境の審査を依頼します。このパターンでは事前に技術的審査を受けられるため最終的に認定の審査を受けるまでに必要とする時間を大幅に短縮できるのです。
このパターンでは、申請者である建築主は直接所轄行政庁に対し居住環境等の審査を依頼します。
通常所轄行政庁は登録住宅性能評価機関へ技術的審査を外部委託します。したがって申請者が審査の依頼をしてから実際に審査を開始できるようになるまでかなり時間を要するのです。
このパターンではどうしても時間が必要となりますのである程度時間的余裕をもって申請をする必要があるでしょう。
すでに説明したように長期優良住宅にはさまざまなメリットがありますが、実際のところ建設や申請に通常よりも時間と費用が必要となりますので、なかなか決心がつかないかもしれません。そこでなかなか決断できない人のために判断のポイントをご紹介いたします。
まずはご自身のライフプランのなかで、今検討している住宅にはたしてどのくらいの期間住むつもりなのか検討してみましょう。もしあまり長い間住むつもりでなければ、この制度を利用するメリットはあまりないかもしれません。
しかし建設した家を自分の代だけで終わらせるのではなく、子や孫たちに相続することも考えているのであるなら別です。長期間にわたって安全な住環境を保障する、長期優良住宅は大きなメリットがあるといってもよいでしょう。
現時点で判断ができない方なら今は無理をしない方がよいでしょう。
今後しばらくは増改築に対してもこの制度を適用することは予想されています。増改築での長期優良住宅のメリットもあるのでリフォームの際にあらためて検討してみるのも手です。
長期優良住宅についてその特徴・メリットやデメリットについてご説明いたしました。
とくに減税のメリットについてはまもなく減税措置の期限が終了することもあり、少しでも考えている人は早めに詳しい人に相談をしておくことをおすすめします。
家は建物だけでなくその家に住む人たちの思い出や記録がつまった、貴重な財産です。
建物を長くよい状態で維持することが保障されたこの制度は建物だけでなく思い出も次世代に引き継いでいける制度です。ぜひともこの記事を参考に長期優良住宅の活用をご検討ください。
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